研究の話①

高専5年から研究始めて、なんやかんや12年目になりました。昔の研究を思い直すついでにちょっと紹介します。細かいことは避けて初心者向けに。

 

自分が学生の頃にやってたのは有機薄膜太陽電池というやつです。太陽電池は皆さんご存知ですよね。屋根の上に乗ってるあれ。光を電気に変えて利用する再生可能エネルギーの一つです。巷じゃとやかく言われてますけど、研究やってる人たちは至極真面目に環境資源・エネルギー問題の解決策として考えてるんですよ。どうにも政策に左右されがちなのと、設置が適当な海外メーカーをもっと規制しなきゃならなかったってのは心に刻んでおかねば。あれがなければせめて国内市場は守れたのに…

 世に売られてる太陽電池は殆どがシリコン太陽電池です。これにもまたいくつか種類があるんですが、あんまり詳しくないので割愛します。中国メーカーは全部これ。国内も殆どこれ。特に中国は大量生産でコスト下げて、効率の良い単結晶シリコン太陽電池を安く供給してます。っょぃ

それ以外だとGaAsやCIGS、CdTeなどの無機化合物系、色素と酸化物を組み合わせた色素増感系、有機半導体を用いた有機薄膜系、最近流行りのペロブスカイト系、最近どうなったのか分からない量子ドット…などなど、色々あります。それぞれ利点と欠点(だいたいが効率とコストのトレードオフ、あとは耐久性と環境親和性)があって、多くの人が日々研究に取り組んでます。

 

さてそんな中でも有機薄膜太陽電池をざっくり紹介。自分は高分子系の研究室で、高分子半導体材料を使った太陽電池の研究をしてました。(今思い直せば高分子使ってない奴もいた気がする。緩い研究室でした…この辺りの思い出話はまた後日)

 

有機薄膜太陽電池の構成と原理

有機薄膜太陽電池はp型(ホールを流しやすい)とn型(電子を流しやすい)の2種類の半導体から成る発電層(活性層とか言う)を電極で挟み込んだ構造をしてます。勿論片方は透明電極。より正確には電極と活性層の界面にホールブロック層、電子ブロック層があります。

 

①入射光の吸収によって励起子(電子とホールが再結合せずにクーロン力で緩くくっついて一緒にいるつ)が生成

②励起子の拡散

③pnヘテロ接合界面での励起子の解離とキャリアの生成

④キャリアの移動

という順序で発電します。この励起子ってのが、上の説明見たらあっ…(察し)って感じなんですが、すぐくっついて(再結合して)失活するんです。そりゃそうじゃ(cv. 石塚運昇) だからなるべくpnヘテロ接合界面に近いところで発生して欲しい。そうは言っても励起子が失活せずに動けるのがせいぜい2,30nmくらい。それだけ膜を薄くすると今度は光を吸収しきれないから膜厚も欲しい。この欲しがりさんめ。そこで考案されたのがバルクヘテロ接合。名前だけ見ると何のこっちゃってなりますよね。三次元的にpn接合を形成する。ちょっと何言ってるか分かんないですね。無機系の人達から聞かれて答えると、ちょっと何言ってるか分かんないって言われます。何でこれでダイオードになるねんって。半導体の教科書見て落ち着いて考える余計に分からなくなるんですよね、なんだこいつ。個人的にはホールブロック層と電子ブロック層が大事だと思ってます。画像は産総研のやつ

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作るのは簡単なんですよこれ、二つの材料を同じ溶媒に溶かして塗るだけ。もともと塗布で作れるのが利点とされてますが、何というかよく出来てるなと思います。これによって励起子ロスは減るし膜厚もある程度稼げて電流値大幅UP!これぞブレークスルーってやつです。(太陽電池業界のその次のブレークスルーで有機薄膜系が一気に下火になるのはまた別のお話) このバルクヘテロ接合層を電極で挟み込んだのが殆どの有機薄膜太陽電池の基本構造になります。平面ヘテロは本当に基礎研究だけど、それも殆ど見かけないですね最近は。

 

最後にこの有機薄膜太陽電池の良いとこ悪いとこの話。まずこれ作るのが簡単なんですよ。ざっくりいうと原料を溶かして塗って乾かす、以上。作製コストがとても安い。熱かけるとしても150℃とか。シリコンウェハーだと融点まで上げなきゃとかあるんですが、それらに比べると安く作れちゃうのが利点です。あとは軽い、といってもpvセルの重さなんて殆ど基板なんですが、有機薄膜は前述の通りあんまり熱かけなくても作れちゃう。だからガラスじゃなくてもっとペラいプラスチック基板の上とかに作れちゃうわけです。だからフレキシブル、ベンダブル、とかも利点になる。染谷先生のとこはサランラップみたいな薄い膜の上に作ってましたね。あれはまた別次元の難易度な気がしないでもないですが。

悪いところは効率と耐久性。自分がやってた頃は7%〜11,2%くらい、最近だともっと出てるみたいですが、やはりポテンシャルの限界がありそうな気がします。耐久性も同じく、有機物ってやっぱ無機物に比べて弱いんです。紫外線で結合切れたりとか、そう言う話。酸性材料の電極腐食問題とかは代替材料で改善されたりしてますが、やはり根本的なとこで太陽電池としての性能は劣ってしまいますね。シリコンや化合物とは別のフィールドで勝負したいとこです。

 

書くの疲れたので今回はここまで。次回は各層の材料と、余力があれば高専の研究室で具体的にどんなことやってたかのお話